第二次世界大戦の解説

嫌われ者のユダヤ人 ドイツの反ユダヤ主義 

ドイツにおける反ユダヤ主義

 第二次世界大戦ではヒトラーが反ユダヤ主義を掲げ、ドイツ国内や占領地でユダヤ人を集めては大量殺戮を行った。

 これをホロコーストと呼ぶわけだが、ユダヤ人が嫌いだったのは何もヒトラーだけではなかった。ヒトラーが登場するずっと前から、ユダヤ人はヨーロッパの嫌われ者だった。

嫌われ者のユダヤ人

 ユダヤ人はヨーロッパ各地に住んでいたが、昔からみんなの嫌われ者だった。

 まず、ヨーロッパ人の大部分はキリスト教を信仰していたから、キリスト教を信じないユダヤ人を嫌うのは当然といえば当然だった。宗教的にも、ユダヤ人はイエス・キリストを殺した人たちである。さらにユダヤ人は選民思想を持っていて、他の集団と交わることを嫌った。ユダヤ人は神に選ばれた民族であり、他の民族と同化しないようにしていた。

 そしてユダヤ人の多くは、キリスト教徒が嫌う仕事をしていた。ユダヤ人のイメージといえば、高利貸し、あくどい商人、豚、金で動く傭兵、というイメージが一般的だった。もっとも、ユダヤ人は嫌われていて農業や工業ができない状態だったから、選べる職業が限られていた。

 こうして社会から隔絶されたユダヤ人社会は、ますます偏見に満ちたものになっていった。

裏切り者のユダヤ人

 第一次世界大戦でドイツにいたユダヤ人は約50万人だった。このうち10万人が祖国のために戦った。このうち、1万2,000人が戦死した。これはドイツ人よりも高い割合だった。

 しかし勇敢なユダヤ人たちは、汚名を着せられることになった。ドイツ国内ではユダヤ人が戦争に協力せず、私腹を肥やしているというイメージが定着していった。そしてそのイメージはどんどん誇張されていき、ついにはドイツの敗因はユダヤ人であるかのように語られるようになった。

 この頃に登場したヒトラーは、ユダヤ人をドイツの病原体だと表現した。ドイツの労働者を腐敗させ、議会を支配し、マスコミを牛耳るのはユダヤ人である。歴史をひもとくと、文化を創造する人種「アーリア人」がいて、文化を破壊する人種「ユダヤ人」がいる。「善」のアーリア人が生き残り、「悪」のユダヤ人は殲滅させるべき人種であるとした。

 この善と悪を明確に表した陰謀論は、頭の悪い人たちにたいへん評判がよかった。ヒトラーの「わが闘争」はその種の人たちにとっては「聖典」のように扱われるようになったのである。

迫害されるユダヤ人

 こうしてユダヤ人は排斥されるようになったが、この運動を喜んだのはヒトラーとその信奉者だけではない。ユダヤ人は金持ちが多く、大学教授、医者、弁護士の割合も高かった。彼らが失脚すれば、自分がその資産や地位を得られる可能性が高まるのである。

 こうした流れの中で「職業官吏再建法」が制定され、ユダヤ人公務員が追放されることになった。さらに、大学入学者のうちユダヤ人は1.5%以下にしなければならないと定められた。また、ユダヤ人と結婚したドイツ人は処罰されることになった。

 ナチスが台頭するまで、ドイツではユダヤ人とキリスト教徒の同化政策がとられていた。多くのユダヤ系ドイツ人は自分のことをドイツ人だと思っていたし、親戚にユダヤ人を持つドイツ人もたくさんいたのである。それどころか、ドイツ軍にもユダヤ系の兵士がたくさんいた。

 こんな状態だから、多くのユダヤ人は祖国ドイツを捨てて逃げ出す人は少なかった。一時的にユダヤ人に対する風当たりが強くなっているが、我慢していればそのうち収まると考えていたのである。

ではユダヤ人とは誰か

 さて、こうなるとユダヤ人とは誰を指すのか、という話になってくる。ユダヤ教を信じていればユダヤ人であるという考えがあるが、それでは「人種」にならない。しかしユダヤ民族というような民族はいないので、見た目でユダヤ人かどうか判断することはできない。

 ナチスもユダヤ人を攻撃していたものの、では誰がユダヤ人なのかというと明確な定義はなかった。そこで次のように定められた。

  • 祖父母4人のうち、3人以上がユダヤ人ならば、その人はユダヤ人である。
  • 祖父母4人のうち、2人がユダヤ人ならば、別途条件により決まる。(第1級混血)
  • 祖父母4人のうち、1人がユダヤ人ならば、その人はドイツ人である。(第2級混血)

 なお、ユダヤ教を信じていれば自動的にユダヤ人になる。このうち第1級混血の人は、条件次第でドイツ人と認められるのだが、社会情勢により常にユダヤ人にさせられる危険があった。

 このようにホロコーストは実に適当に決められた結果、起こされたものだった。